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第5回 PBR1倍割れでも割安とは限らない

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< 2 > ◆◆期間限定連載中◆◆ 公認会計士 足立武志氏による
「決算書分析による銘柄選びの落とし穴」
第5回 PBR1倍割れでも割安とは限らない
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PERと並んで多くの投資家になじみのある指標、それがPBR(ピービーアール)です。

PBRは「Price Book-value Ratio」の略称で、日本語では「株価純資産倍率」とも呼ばれます。株価を1株当たり純資産で割ればPBRを求めることができます。

 PBRは、株価が1株当たり純資産の何倍まで買われているかを示すもので、「PBR=1倍」というものが株価の下値の目処として使われます。

 ところで、なぜ「PBR=1倍」が下値の目処なのでしょうか?それは、1株当たり純資産が別名「解散価値」とも呼ばれ、仮にその会社が解散・清算したときに理論上株主に戻ってくる金額を表しているからです。

 実際には破たんしていない上場会社が解散・清算する、ということはほとんどありません。しかしながら、会社法でも「残余財産分配請求権」といって会社が解散・清算したときに債務を弁済して(借りたものを返して)残ったお金を受け取れる権利がしっかりと規定されています。

 そのため、解散価値を株価が下回る、すなわちPBRが1倍を割り込むということは、理論上株主が受け取れる金額より低い価格でその会社の株を買うことができる状態です。それで「株価は割安」という評価がなされます。

 では、PBR=1倍割れなら何でもお買い得かといえば一概にそうとも言えないのが難しいところです。
 実際、現時点で東証1部上場銘柄のうちPBRが1倍を割れている企業は何百社もあります。しかも、株式市場全体が下落基調を続ける中、その数は増加しています。

 2002年秋から2003年春にかけて、今と同じように何百もの銘柄のPBRが1倍割れとなりましたが、そうした銘柄の株価はその後大きく上昇しました。したがって、その当時と同様に今回も「買い時」である可能性は大いにあります。
 しかし、ただ単純にPBRが1倍を大きく割れているから「割安だ」と飛びつくのは非常に危険です。

 CSKホールディングス(9737)を例にとってみましょう。

 2008年(平成20年)3月期の決算短信によれば、2008年(平成20年)3月末の1株当たり純資産は2317円18銭となっています。発表日の5月8日の株価は2,440円でした。

 

*週足チャート資料【1】上記のチャートは 「マーケットチェッカー2」より抜粋。チャートをクリックすると拡大画面でご覧いただけます。
 このときのPBRは、(2,440円/2,317円)=約1倍です。

 ところが、2006年はじめをピークに下げ続けていたCSKの株価は2008年4月前後に下げ止まって横ばいになったものの、決算発表後に再び下がり始めます。

 そして、2008年9月25日には業績予測の大幅下方修正を行い、当期純利益は当初予測の120億円の黒字から140億円の赤字、1株当たり当期純利益は181円74銭のマイナスと発表されました。
http://www.csk.com/press/hd/2008/1186530_2061.html
(CSKホールディングスHP:2008年9月25日「業績予想の修正に関するお知らせ」)


*週足チャート資料【2】上記のチャートは 「マーケットチェッカー2」より抜粋。チャートをクリックすると拡大画面でご覧いただけます。


株価はこの業績下方修正により、さらに下落しました。10月には株価は1,000円割れになり、その後も下落は止まりませんでした。

そして、2009年3月期第3四半期決算の発表直前の2009年2月には、263円まで株価は叩き売られたのです。9ヶ月で株価は10分の1になってしまいました。

*週足チャート資料【3】上記のチャートは 「マーケットチェッカー2」より抜粋。チャートをクリックすると拡大画面でご覧いただけます。

 会社は、2009年3月期第3四半期決算の発表と同時に、2009年3月期の業績予測の大幅な下方修正を行い、当期純利益予測は1,040億円の赤字、1株当たり当期純利益は1,350円07銭の損失と発表されました。
http://www.csk.com/press/hd/2009/1186709_2145.html
(CSKホールディングスHP:2009年2月13日「平成21年3月期 連結業績予想の修正、および棚卸資産評価損の発生ならびに当社(個別)における特別損失の発生、および配当予想の修正に関するお知らせ」)

 CSKホールディングスの株価の動きから、興味深い事実が分かります。2008年9月下旬の業績下方修正の直後、株価は1,000円でしたが、業績予測修正を加味した2009年3月末の予想1株当たり純資産は2,000円以上と計算できます。

 つまり、予想1株当たり純資産が2,000円なのに株価は1,000円しかついていません。言い換えればPBRが2008年5月の1倍から0.5倍に下がってしまったのです。

 しかし、PBRの低下はこんなものではありませんでした。2009年2月に株価が263円まで叩き売られた時点では、PBRは0.15倍程度まで下がっていたことになります(業績予測下方修正前のため、下方修正直前の業績予測値で計算)。

 2008年5月から2009年2月までの一連の株価の動きからは、CSKホールディングスの2009年3月期の決算が2008年9月の下方修正の数値よりもさらに大幅に悪化しそうだと多くの市場関係者や投資家が思っていたであろうことがよく分かります。そして、実際にふたを開けてみると1,000億円以上もの大赤字だったのです。

 さて、1,000億円以上もの大赤字を計上してもなおCSKホールディングスの1株当たり純資産は1,000円程度ありますから、株価が300円程度である現時点でのPBR0.3倍は割安なのではないか?という考え方もできます。

 PBRが0.3倍にとどまっている理由としては、おそらく市場関係者や投資家の間で次のような不安材料があり、これが悲観視されて株価に織り込まれているためと思われます。

・2009年3月期の業績はさらに悪化するかもしれない(1株当たり純資産のさらなる減少要因)
・2010年3月期の業績も大赤字かもしれない(1株当たり純資産のさらなる減少要因)
・万が一を考え、最悪の事態も想定しなければならない

 したがって、最悪の事態にならずに2010年3月期以降、順調に業績が回復した場合は、結果的に今のPBRは売られすぎで株価は割安だった、ということになります。

 実際、2002年秋~2003年春に多くの銘柄のPBRが1倍以下になるまで叩き売られたときも先行きの業績に過度に悲観的な見方が台頭していたために株価が非常に低くなっていました。しかし、2003年以降各社の業績は回復していったことから、結果的に2002年~2003年の株価は割安だったのです。

 ただ、景気悪化が続くなか、実際に2010年3月期以降の業績がどうなるかは非常に不透明ですから、「2010年3月期以降の企業業績は回復するはずだから今の株価は割安」と決め打ちしてしまうのも考え物です。

 
★ 今回のポイント 
 PBRを使って銘柄探しをする際は、次のようなことに気をつけるようにしましょう。

■気になった銘柄の株価が下げ途中ならば、下げ止まるまでは無理に買わずに様子を見る

 いくらPBRが低くても、今のように株価が下落トレンドの中にあれば、さらなる下落に陥るリスクも大いにあります。筆者の目にも「さすがにこれはお買い得だ」という銘柄は数多く映りますが、それでも下がるときは「これでもか」というくらい下がるものです。
 いくらなんでも安すぎるだろう、と思う銘柄を少量買ってみる程度ならよいでしょうが、下げ相場が終わるまでは、PBRなどから判断した結果いくら株価が割安に思えても大勝負をするのはやめましょう。

■PBRが異常に低い銘柄の場合、業績の悪化や破たんのリスクが非常に高いので注意

 中にはPBRが0.1倍、0.05倍、0.01倍といった銘柄もあります。0.01倍といったら、1株当たり純資産が1,000円の会社の株価が10円、という状況です。
 ここまでPBRが低いときは、逆に「何かある」と思っていて間違いありません。上でご紹介したCSKホールディングスのように業績の大幅な下方修正が後日発表されたり、日本綜合地所のように経営破たんしてしまうことが珍しくないのです。

■できればPBRが低い上に黒字を確保しており、かつ借入金が少ない銘柄を選ぶ

 PBRが低い銘柄を探していると、不思議とこういう銘柄に出くわすものです。破たんリスクをできるだけ避けたい方は重要視するとよいでしょう。

 ただ、今後想定外の業績下方修正をする可能性もありますから、業績予測の発表や株価の動き(変に株価の動きが弱い場合、業績下方修正という悪材料が隠れている可能性がある)には常に注意が必要です。

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足立 武志(あだち たけし)
公認会計士・税理士・ファイナンシャルプランナー(AFP)。
足立公認会計士事務所代表、株式会社マーケットチェッカー 取締役。1975年神奈川県生まれ。一橋大学商学部経営学科卒業。資産運用に精通した公認会計士。会計・税務業務にとどまることなく、執筆、セミナーなどを通じて、個人投資家 の資産運用に真に有益かつ必要な情報提供を行っている。著書に『すぐできる!らくらくネット株入門』(高橋書店)、『はじめての人の決算書入門塾』(かんき出版)がある。パンローリング社トレーダーズショップでBlogを執筆中。
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