HOME > マネーを学ぶ6つの方法 > メールマガジンで学ぶ > 第 4 回 モンゴルのインフラ投資の現状と展望
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
< 7 > 「知られざる資源大国モンゴル」
第 4 回 モンゴルのインフラ投資の現状と展望
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇
モンゴルに初めて来た日本人に『ウランバートルの第一印象はどうですか?』といつも聞くことにしている。すると大概、日本の30年前とか50年前とかいう返事が多い。
ただこの30年前とか50年前とかいう言い方は非常に曖昧だ。筆者を含め、答えている本人が50年前はおろか30年前の日本も知らないケースも多い。しかもモンゴルが日本の発展をそのまま受け継いでいくわけでもないし、現実のモンゴルの発展はもっと複雑だ。
どういうことかというと、・・・・・
非常に発展している部分とまったく2000年前と変わらないんじゃないかと思われる部分が共存しているのだ。この点は、日本というよりむしろ中国に似ている。
ちなみに、ウランバートルの中心部のスフバートル広場の周りには高級なオフィスビルやホテ
ルが建設ラッシュを迎えている。弊社が年末から入る予定のワールドトレードタワーは香港のケリーグループ(シャングリラホテルを傘下に持つ香港でも有数の不動産会社)と手を組み、今までのモンゴルのオフィスビルにはないような、高速インターネットの常時接続可能な環境やレストランなどの付帯設備が充実しているサービスを提供する予定だ。また欧米の一流ブランド(たとえばルイ・ヴィトン)も数多く入居する予定である。
ところが、繁華街から北へ7,8分車で走るとゲル地区に入り状況は一変する。そこは水道、ガスもない、いわばスラム街だ。冬は使えなくなった車のタイヤを燃やして暖を取るため大気汚染が大問題になっている。ウランバートルの人口の半分以上はこうしたゲル地区に住んでいるといわれている。
また、モンゴルでは道路もでこぼこだらけで全く整備されていない。日
本からのODAで数年前に幹線道路が作られたがその他は未整備だ。都市計画はあるにはあるがあまりきちんと実行されているようには見受けられない。
要するに、中国の場合は国の主導権が強くこの15年間、整然とインフラが整備されたのに対し、モンゴルの場合は、未だ、国にファイナンス能力、計画作成能力、計画遂行能力が不足している。だから受身に提案を受け入れるやり方になっているのだ。
モンゴルでインフラ整備という場合、色んな問題を解決しなければならない。あまりに多すぎてこのコラムでは書ききれないだろう。いま挙げた都市のインフラ(道路、水道、ガス、電力、住宅など)の整備、地方と首都を結ぶ鉄道や道路の整備、広い国土をカバーする通信網の整備、海外とモンゴルを結ぶ空港、航空網の整備などが挙げられる。そのどれもが重要な案件だ。
ただし、モンゴルの発展にとって最も重要なのは鉱山開発をいち早く行うためのインフラ整備であろう。その意味では鉄道・幹線道路の整備、発電所の建設などが重要な懸案事項になろう。その中でも外国人機関投資家が最も重視しているインフラは鉄道の整備である。というのは、金など軽くて持ち運びし易い鉱物資源はともかく、石炭など比較的に重い鉱物についてはいくら国際市況が上がってもインフラがなければ十分輸送できない。
輸送できなければファイナンスもつかないという宝の持ち腐れ状態に陥っている。つまりいくら埋蔵量が確定されていても投資家にとってはインフラが整備されない限り将来のキャッシュフローが推定できない限り投資の対象となり得ないのである。従って、今回のコラムではモンゴルのインフラ投資の中でも1番重要である、鉄道敷設に焦点をあてることにする。
モンゴルにおける鉄道は、現在では1949年に創立されたロシア政府が50%、モンゴル政府が50%出資による公社のモンゴル鉄道(MR)によって運行されている。このモンゴル鉄道は、1938年に首都ウランバートルから炭鉱のあるナライフまで43kmを750mm軌間(ナローゲージ)により開通した鉄道で、その後1951年にソビエト連邦の支援を受け、中華人民共和国国境の二連からソビエト連邦国境のナウシキまで1113kmの南北縦断鉄道を完成させた。ゲージは当時ロシア側のものが採用されたため、今でも、中国からモンゴルに貨物が入ってくる場合、物資の入れ替えが必要となっている。現在では南北縦断線とその支線、さらにモンゴル国北東部のシベリア鉄道の支線をソロベニスクからモンゴル国内まで延長させる形で建設された貨物鉄道線を合わせ、1800km超の路線を保有してい
る。
モンゴルにおける鉄道の利用のうち、貨物のシェアは96%にもなっている。しかし、整備は余り行き届いておらず、設備の多くが老朽化して災害などによる運休も多発している。モンゴル政府は合弁相手のロシア政府に新たな設備投資をするよう再三にわたって働きかけている。
しかし、ロシア側はこれまで新たな設備投資の要求に応じてこなかった。モンゴルの鉄道省の高官によると、ロシアの思惑は100%保有しているシベリア鉄道をモンゴル鉄道より優先させたいため、新たな投資に応じなかったとのことだ。確かに北京からモスクワまでのルートの最短距離は地図の上ではどうしてもモンゴルを通らざるを得ないことになるため、もしモンゴル鉄道が大々的に整備されるとシベリア鉄道が脅かされるというわけだ。
そうした状況の中、モンゴル政府は自前で第二の鉄道建設を計画することにした。自前の鉄道建設には中国政府が最も積極的に支援を発表している。それというのも中国にとってモンゴルでの鉄道敷設の権利を得ることの利益を十分に感じているからだ。鉄道はモンゴルから中国に資源を輸送する意味で重要であるばかりではない。今まで海上輸送に頼っていた欧州への輸送が鉄道で実現できるのだ。ある専門家の試算によると中国から欧州に物資を輸送する場合天津や上海から海上輸送すると45日から60日かかるそうだ。
また、昨今の原油価格の高騰により輸送費用も上がっている。しかし、もしモンゴルを縦断しロシアを通り欧州まで行く鉄道が開通すればわずか15日で欧州まで物資が輸送できる。モンゴルや中国にとっての利益は勿論あるが世界経済への経済貢献も計り知れないメリットが大きいというわけである。
そういうわけで、中国側は鉄道の利用権をある一定期間中国政府に与える代わりに利用期間が終わったらモンゴル政府にすべて返すという提案を出した。中国側としてはモンゴル側の承認を得るためできるだけの好条件を出したわけだ。一方、ロシア側は取りあえず以前のモンゴル鉄道と同様の50/50のJV(ジョイントベンチャー(共同企業体):資金・技術・労働力をまかなえない場合に連帯し完成させていくこと。)を作りたい考えだ。ロシアとしては、ロシアとモンゴルとの関係は良好であるためこれまでの関係の延長線上でモンゴル側との交渉が結ばれることを期待している。
しかしながら、モンゴル政府はどちらの提案にもゴーサインを出していない。どちらかの案を取って経済的な植民地になるのが怖いのである。恐らく経済的には中国の提案を受け入れるのが最も有利であろう。しかし、中国はモンゴルが最も警戒している国である。一方、ロシアは歴史的に関係が良好でまた、現政権との関係も近いため心情的にはロシアの提案に乗りたいところであろう。ただし、モンゴル鉄道の二の舞になるのはいやだと考えているようだ。
従って、モンゴル側は日本を含む第三国が第三の案を出してくれることを望んでいる。誰からも経済的に依存することなく経済発展を進めたいのである。従って、中立的な第三の提案が出てくれば受け入れる可能性がある。今後どの案が採用されるのか今の時点では未定だが、新政権の下、できるだけ早くどの案にするのか決めてすばやく鉄道敷設計画を決めることが重要であろう。鉄道敷設には一キロあたり1億円程度かかるというのが相場らしい。
南北の幹線を作るのに2000キロ、東西が3000キロ、その他オユトルゴイやタワントルゴイまでの支線などもろもろあわせると合計1兆円程度の大規模プロジェクトになる。GDPが4000億円の国のプロジェクトとしては壮大だがこれからモンゴルが中国への資源の供給基地になること、また、中国からロシアまたは中国から欧州への物資の中継ルートになることを考えると経済効果は十分ある。このプロジェクトが成功する可能性を期待したい。
井形 正晃
外資系証券(ソロモンブラザーズ、日興シティグループなど)で日本株の営業をした後、数年前に香港で投資会社を作りアジア株を主に運用。昨年、モンゴルで外資系初のフルサービスの証券業務を行うフロンティア証券を設立。