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< 2 > しろやぎ通信 from NY
第23回 中央銀行頼みの金融対策と、待ち受ける春の嵐
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(バーナンキ議長のインタビュー)
去る日曜日のニューヨーク時間午後7時から、アメリカ3大テレビネットワークの一つであるCBSの「60 minutes」という人気報道番組で、アメリカの中央銀行であるFRBのバーナンキ議長のインタビューが放映されました。中央銀行のヘッドが民間のインタビューに応じるのは極めて異例なことです。
さて、番組では、バーナンキ議長の祖父が東欧からの移民で、薬局を営む典型的な労働者の家庭に育ったこと。
頭脳明晰なバーナンキ青年がハーバード大学に入学を認められた際に母親が「あなたはハーバードに着て行くようなちゃんとした服がない」と言って入学に反対したエピソードや、彼がメキシコ料理レストランでウェイターをして学資を稼ぐ苦学生だった話などが盛り込まれていました。
また、先日、抵当権が実行されて有名になった、彼が子供時代に育った家(現在は他人が所有)の前を、インタビュアーと一緒に歩くという映像もありました。
昨年破綻したAIGの救済に乗り出さざるを得なかったことについては怒りを表明し、「ウォール・ストリートの人間とは、それがメイン・ストリートに影響を与えるから会うだけで、自分はその世界の人間ではない。」と強調していました。
ここで、「メイン・ストリート」というのは普通の労働者の家庭という意味で、金融機関の人間=「ウォール・ストリート」に対置する概念として使われています。
そして、「タバコの火の不始末で、ある家が火事になったとき、タバコの火の不始末をした人間を非難していると、周りの木造の家に火が燃え移ってしまう。まずは火を消すことが大切で、その後に不始末をした人間をどうするかを考えるべき。今は未だ火が燃えている状況だ。」としたうえで、「現在の最大リスクは問題解決のための対策に対する政治の意思の不足だ」と述べました。
バーナンキ議長がこうした異例なインタビューに応じた背景には、オバマ政権の金融・経済対策に対する国民の支持が低下しているという事態への危機感があります。CNN調査によると、オバマ政権の支持率(64%)は、経済政策への支持の低下を背景に、この1ヶ月で12ポイント低下しています。
(AIGのボーナス支払い)
そんな中で表面化したのがAIGのボーナス支払いです。昨年秋に破綻して、FRBから380億ドル、政府のプログラム(TARP)から400億ドル、合計780億ドルの支援融資を国から受けているアメリカの保険最大手AIGですが、同社が政府の支援を受け始めた後に、100万ドル以上のボーナスを73名に支払い、うち11人は既に退職している、との報道を受け、世論は怒り心頭に達しました。
中でも、AIG破綻の原因を作った金融プロダクト部門であるAIG FPに属する人間にボーナスが支払われたことが、「泥棒に追い銭だ」とばかりに世論の強烈な怒りを買っています。これまでAIG FPが積み上げた膨大な取引ポジションを整理・削減するには、「戦犯」達を退職させずに「敗戦処理」をさせる必要があるという状況下、彼らを引き止めるために已むに已まれず支払ったという性格の金だとの説明がされていますが、納得感はありません。
こうした中、今週水曜日に開かれた議会下院の公聴会では、AIGのエドワード・リディCEOが証人として呼び出され、厳しい尋問が行われました。
リディ氏は、AIGの破綻後にその処理のために任命され、報酬も年1ドル、ストックオプションもなし、という半ばお国のために奉公している人です。しかも、人々の怒りを買っているAIGのボーナス支払いは、彼がCEOになる前に締結された契約に基づいて行われたということですから、彼が鉄板の上でジリジリ焼かれるような尋問を受けるのは気の毒といっては気の毒なのです。
しかし、一方で、彼がCEOになってからボーナスが支払われた事実は曲げようがないので、その対応振りについて厳しい追及を受けるのは仕方ないともいえます。
リディCEOは10万ドル以上のボーナスを受けた従業員は少なくとも半分は返戻するように促している、と証言しました。ただ、議員の多くは矛を収めず、公的資金が投入された金融機関で一定金額以上のボーナスが支払われた場合には、それを100%近い税率で課税して国庫に実質的に返納させるとの法案が、今週にも提出されると報じられています。
さらに議会は、AIGのボーナス支払いについては、財務省にも問題があったのではないかとして、来週にはガイトナー財務長官が呼び出されて証言することとなりました。
(しわ寄せはFRBに)
問題は、バーナンキ議長のいう、課題に対処するために必要な「政治的な意思」が、AIGのボーナス支払いのような案件が浮上することにより、ますます脆弱になることです。
現在、アメリカでは金融システム構成上重要と考えられる19の大手金融機関に対するストレステストを実施中であり、十分な資本がないと判断された場合には政府が資本を注入することとなっています。これは基本的には政府の管理下で解体・整理される方向にあるAIGの処理よりも、遥かに重要な案件です。しかし、実はそのために必要な具体的な財源の議会承認はこれからです。
さらに、こうした対策を人々に納得してもらい推進しなければならない立場にあるガイトナー財務長官の信任が徐々に失われてきているように見えることも、不安材料です。彼が金融機関の不良資産を買い取るための「官民合同ファンド」の設立を2月に発表した際に、具体的な内容の乏しさから株が大きく売られたのは記憶に新しいことと思いますが、このプログラムの具体的な開始が延び延びになる中、実行力が本当にあるのかとの疑問符を付けられてきています。
こういう状況になると、政府としては、世論と議会という難物に直接対峙せずに済むFRBに多くの対策を依存することになります。案に違わず、官民合同ファンドの実現性が疑問視される中、今週水曜日には、FRBが実施を予定している証券化商品の購入支援プログラムであるTALF(Term Asset-Backed SecuritiesLoan Facility)の対象に、不良資産を含めてしまうという構想が浮上してきました。
しかし、FRBが全て対応できる訳ではありません。実質的に損失を蒙る可能性のある資産をFRBが買い取る若しくはそれを担保にノンリコース・ローンを付けるのは、国民の判断を仰がないまま実質的に国民負担の可能性を増やす、いわば裏口入学のようなものだからです。実は、すでにベアスターンズとAIGの処理にあたって、プールした不良資産向けのローンが含み損を抱えているという事実はありますが、無軌道にこれを続けることはできません。いずれにせよ、政府支出の議会承認問題が俎上に上ってくるのは時間の問題なのです。
2009年3月6日に直近の最安値を付けたアメリカの株式相場は、この一週間余りで漸く春らしい相場付きになってきました。金融株の希薄化懸念が薄らいだことが大きな背景だと思われ、これが大底になる可能性もあると思います。ただし、議会承認を巡り、春の嵐がもう一度やって来ることへの覚悟もしておいた方が良いと思います。