HOME > マネーを学ぶ6つの方法 > メールマガジンで学ぶ > 第17回 史上最大の詐欺、バーナード・マドフ事件からの教訓
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
< 4 > しろやぎ通信 from NY
第17回 史上最大の詐欺、バーナード・マドフ事件からの教訓
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◆◇
先週木曜日にナスダック元会長のバーナード・マドフ氏が、自ら「ねずみ講(Ponzi scheme)」と称した被害額500億ドル(4.5兆円)になる詐欺容疑で逮捕され、その結果、金融界に激震が走りました。
マドフ氏に運用を託していた投資家として、Santander、Fortis、HSBC 、RBS、BNP Paribas等の大手金融グループの名前がずらっと並び、日本の名前としても、野村證券やあおぞら銀行等が投資していたと発表されています。さらにはフロリダ州の教員が虎の子の5万ドルを運用委託していたという例も聞かれています。(投資家一覧はこちらから 英語のページがひらきます。)
マドフ氏が運用していたとされるファンドの特徴は、リターンは年率10~15%程度とヘッジファンドとしては取り立てて高くはないものの、ボラティリティが非常に低く、リスク(ボラティリティ)調整後のリターンが極端に高いという点にありました。
しかしながら、かねてから、こうした結果を上げるのは、マドフ氏が行っていると説明している戦略からは不可能ではないかという疑問の声が上がっていました。すなわち、リターンがあまりに安定し過ぎていたのです。
ファンドの投資戦略としては、「Split Strike Conversion」を行っていたとの説明がされていました。具体的には、株の30~35の銘柄のバスケットを保有し、S&P100のコール・オプションの売りとプット・プションの買いを組み合わせ、一定以上の株価上昇のメリットをあきらめると同時に、一定以上の株価下落の悪影響を防ぎ、安定的な収益を稼ぐというものです。
この戦略自体はありふれたものですが、典型的には株価の上昇局面で上手くいくが、株価の下落局面では損失をこうむることが多い戦略にもかかわらず、マドフ氏のファンドは株価下落局面でも比較的安定したリターンを上げ続けていました。同様の戦略を取っている他のファンドのボラティリティは、マドフ氏のものに比べてはるかに高いものでした。
これに対し、マドフ氏は、月次でのリターンは安定しているだが、日次や週次でみたボラティティは低くはない、また、ポジションの保有期間が限られている、自動執行だけを行っている訳ではなく裁量的判断を入れているが、具体的な内容は企業秘密だ、といった説明をしていたようです。
また、上記のような戦略は金額が小さい限りは執行できるものの、マドフ氏の運用するようなファンドの規模になると、例えばS&P100オプションの取引量は、取引所での出来高の数倍になってしまうという計算になってしまいました。これに対し、マドフ氏は、殆どのオプション取引を取引所外で行っている、という説明をしていたようです。
また、ファンドの運用に典型的なマネジメント・フィーを取らずに、プログラム・フィーのみを取る、すなわち、ファンドは株式等の売買をしますが、その売買手数料を収益源としていたことや、自己資金を用いて同様の戦略を取らないこと、レバレッジをかけないこと等についても、疑問の声が上がっていました。
マドフ氏が使っていた会計事務所は、Friehling & Horowitzという従業員が3名しかいない、全く名の知られていない事務所でした。
また、組織としても、取引実行、資産管理、資産状況報告の権限が分散されておらず、けん制の効かない体制になっていたようです。
こうした注意喚起すべき信号が上がっていたにもかかわらず、マドフ氏のファンドに資金を投資したファンド・オブ・ファンズのマネージャー達は、金融のプロとして必要なデュー・デリジェンスを果たしていたとは言えず、彼らも刑務所に行っても良いくらいだとの声も上がっています。
また、監督当局である証券取引委員会(SEC)が、過去に何回か疑問を提起されたにもかかわらず、結果的には10年以上に渡って本件を見過ごしてきたという非難を浴びています。
さらに、アメリカでの過去のねずみ講事件を見ると、投資家間での訴訟合戦になっています。すなわち、ねずみ講に先に入ってリターンとして資金を受け取っていた投資家は、実質的には後から入ってきた投資家の資金を本来受け取るべきではないリターンとして受け取っていたものであるから、資金を返還せよという内容です。本件でも同様の訴訟が起きるでしょう。
このように、この事件自体が今後かなり醜悪な展開を見せそうですが、ファンド業界としては透明化・説明義務の水準を一段と高めることを求められるでしょう。その過程で開示態度の良くない他のファンドからの資金の引出しが生じて相場に悪影響を与える可能性があるかもしれません。
この時点でも投資家として得られる教訓があります。
すなわち、合理的な説明が付かない中身がブラックボックスのようなものには投資してはならないことと、投資先は分散すべきであるということ、です。
自ら頭を使わず、群集心理に任せて行動することの危険性を象徴している事件だと思います。