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第8回 一橋大学イノベーション研究センター 米倉 誠一郎 先生

 今回のリレーエッセーは、一橋大学イノベーション研究センター 
 米倉 誠一郎 先生にご執筆いただきました。

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 お金と格差と教育


 日本社会で格差が拡大しているという議論が真っ盛りである。構造改革が社
 会的弱者を切り捨て、強い者が富む一方で、弱い者はますます貧しくなった。
 そして影響は教育投資にも及び、社会的な階層が固定化され、社会の活力が奪
 われるといった議論である。

 しかし、情報や市場の格差(ギャップ)や違いがあるところに目を付け、企
 業家的利潤(entrepreneurial profit)を獲得することこそ,経済発展のダ
 イナミズムだ。さらに、格に差があれば違いをつけるのも資本主義の大前提
 である。

 マリナーズのイチローと社会人野球の選手の給料が同じであっていいはずがな
 い。

 そもそも、差を付けることはそんなにいけないことなのだろうか。差が付く
 ことがわかると、人間は競争する。自由に競争が行なわれると、社会の上層
 に位置する者であっても、ボヤボヤしているとその座を脅かされかねない。
 下にいる人間は何とか頑張って夢を実現しようとする。社会の活力はそんな
 ところ、すなわち上層に留まりたい者と上りたい者との葛藤から生まれるの
 である。ところが、世論やメディアが本来なすべき議論が、どんどんと違う
 方向へ向かってしまっている。

 本当の問題は実は2つある。一つはこの格差が固定化してしまう危険性であ
 り、もう一つは格差を一つの尺度でしか語れない貧困な職業観である。
 格差が固定されないためには、いわゆる「再チャレンジ」が可能な社会を作
 ることが重要だというが、今ひとつ何をいっているのか漠然としている。
 はっきり言えば,公的教育の充実がより重要である。誰もが受けることが出
 来る公立学校を常に最高水準にしなければならないということである。また、
 奨学金の数を何倍にも増やして、努力すれば高等教育への道が次々に開かれる
 ような社会のデザインが必要なのである。

 もう一つの「尺度」に関していえば,それは職業観の確立に他ならない。今
 の日本人には自分の職業に対する誇りが欠けている。そのために、仕事の価
 値基準を中身ではなく、収入に置かざるを得なくなっているのである。
 これは東大の工学,芸大のピアノ、体育大の体操、外語大のインド語を偏差値
 という馬鹿げた単一の尺度で計っていたことと同じである。結果として、
 目にあまる学校(学歴ではなく)主義や拝金主義がはびこっているのだ。
 プロ・バスケットのマイケル・ジョーダンは、全盛期に年収100億円を稼ぐと
 いわれた。しかし、彼の年収が高いからエライのではなく、素晴らしいバス
 ケット選手だからエライのだ。すごい腕のそば打ち職人、情熱に溢れた小学
 校教師、完璧なタクシードライバー、微笑みを絶やさないウェートレス。
 彼らは収入ではなく,そのプロとして尊敬されるべきなのである。お金の教
 育とはそうした職業観や社会観を前提にしてはじめて価値をもつのではないか。


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 次回はネットライフ企画(株)そして あの「ハーバードMBA留学記」の執筆者
 の岩瀬 大輔さん にご登場いただきます。お楽しみに!


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